NO.32秋季号 2007年9月1日発行

野菜施設栽培に求められるもの -小規模施設栽培と養液栽培-千葉大学園芸学研究科教授 篠原 温

2006年11月篠原教授から「施設園芸の現状と将来」というご講演いただきましたが、この中から、小規模施設栽培と養液栽培についての部分を抜粋で掲載させていただきます。

野菜施設栽培の課題最近園芸産品の輸入が急速に増加し、野菜園芸という産業は戦後最大の曲がり角にさしかかっています。家族労働を前提とし、経営規模もあまり大きくなく、さらに農業者の平均年齢が65才を超えた日本の農業をいかに維持発展させていくかは、我々関係者にとっても最大の課題となっています。

冷凍加工を含めた野菜の輸入は、国内との価格差によってこれからも増加していくと思われますが、国際競争力のある価格で、これまで以上により安全な生鮮野菜を作ることが必要であり、また一方では付加価値の高い商品を作り出し、販売方法を工夫することによって、価格は高いが消費者はそれらをささえるというようなしくみも可能性があると思っています。

施設園芸の現状

比較的小規模でも行われるホウレンソウの周年栽培比較的小規模でも行われるホウレンソウの周年栽培 日本の野菜生産のとるべき方向は、二つに大きく分けられ、一つは、規模の拡大、あるいは、設備投資・機械化などによる生産の効率化・省力化によって、生産コストを抑え国際競争力をつけていく方向であり、もう一つは、経営規模は小さくても、輸入あるいは一般的な生産物と明確に差別化できる高品質野菜の生産を行うことであると位置づけ、しっかりとした品質管理を行った上で、売るところまで考えざるを得なくなったことでしょう。 このご時世に成功している生産者を見ると、ほとんど例外なく生産物を商品と位置づけ、自信を持って自ら売り先まで考えて出荷をしていることが多い。JAもしかりです。JA自らがマーケティング戦略とそれにふさわしい営農指導を始めているところは、活気があります。

小規模施設栽培現在も小規模な生産者が日本の野菜生産を担っていることに変わりはありませんが、高齢化や後継者不足はますます深刻です。このまま時が流れれば中小の農家はその多くが淘汰されてしまうでしょう。

一方、「地産地消」「有機無農薬」「直売所」「旬の野菜」「地方品種」「安心安全」などというキーワードが頻繁に目や耳に飛び込んでくるようになっています。私は小規模施設栽培こそ、これら地域に密着した流通や、ネットを利用した新しい販売に基づく営農形態として発展が期待できると思っています。

「連帯」とか「結束」などという言葉は、今では核家族化などによって忘れ去られてしまった感がある言葉ですが、今再び重要な意味を持ってきており、もともと日本人にあったはずの人々の連帯が問われているのではないでしょうか。

JAのマーケティング戦略にもとづきGAPによる水耕ネギ、ホウレンソウ、サラダナ、サンチュなどがスーパーに販売されるJAのマーケティング戦略にもとづき
GAPによる水耕ネギ、ホウレンソウ、サラダナ、
サンチュなどがスーパーに販売される
先に元気JAがあると言いましたが、営農部を「マーケティング営農事業部」という名にした島根県のあるJAでは、地域で自信のある野菜・特徴のある野菜の栽培を指導し、売り先はJA会員と一緒に考えるというシステムを作って成功しているのです。 このJAでは、特に水耕ネギやチンゲンサイの栽培と集出荷施設にJA独自で決めたGAP(適正農業規範)を設定し、徹底した安全な野菜作りを指導した結果、視察したイオンをはじめとする流通関係者がこぞって「この野菜ならいくらでも引き取るから、どんどん増産してくれ」とコメントしていたそうです。 立派な商品を作ることによって経営は向上するという良い事例ではないでしょうか。

養液栽培施設栽培面積施設栽培面積は減少に転じているにもかかわらず、養液栽培の施設面積は、年々順調に増加し、2003年統計で約1,500haとなっています。(左図)

養液栽培施設は大型生産施設を中心に増加していますが、一方ではイチゴにおける高設栽培システムの普及など、小規模であっても養液栽培のメリットを生かした省力・自動化生産が土耕栽培に代わって増加しているといえます。

養液栽培は、本来的には大規模栽培に向いた形態でありますが、小規模には小規模なりに施設園芸の近い将来に貢献できる技術の一つであると考えます。特に都市近郊での栽培にはマッチしています。しかも環境負荷を最小限に押さえることも可能な技術であり、より安全な生産物を消費者に届けられるという有利な点も持ち合わせているのです。したがって、養液栽培の健全な発展は、規模にかかわらずわが国の施設園芸にとって不可欠であると思われます。

「養液栽培は化学肥料のみによって栽培されるから、生産される野菜は毒である」などという非常識な言葉はさすがに聞かれなくなりましたが、「有機栽培野菜はより安全で栄養価も高く、おいしい」という意見はマスコミも含めて頻繁に聞かれる言葉です。

わが国においても、持続型農業、減農薬減化学肥料栽培が推奨されています。有機栽培に対しては、そのプラスイメージを強調したいがためか、その環境負荷の問題はさほど重視されていません。逆に水や化学肥料をふんだんに使っている(本当は典型的な節水・節肥料栽培なのだが)というマイナスイメージの強い養液栽培は、異端者扱いされているきらいが見られます。

アレルギー体質の人は有機栽培の野菜しか食べてはいけないなど、全く根拠のない話でありまして、無農薬の野菜であれば、養液栽培も有機栽培も何ら差は見られないのです。

土づくり・物質循環と環境負荷の問題は別次元の問題として明確に認識してもらいたいものと思います。
環境負荷軽減技術は、有機栽培・無機栽培共通の責務であり、その達成に向けて相携えて進むべきものです。その芽を摘むような感情的な動きに対しては、科学的な根拠をもとに議論すべきであると強く主張したいものです。

おわりに施設園芸の将来に求められるものについて私見を述べさせていただきましたが、現在様々な取組が開始されています。

今後は、考えられるキーワードを考えつく限り挙げ、はっきりとした具体的な数値目標を立てたうえで、それを具現できる方策を考え、その実現に向かって実行していく姿勢が大切となると思います。

がんばる!クリンテート家族
クリンテートで高品質完熟マンゴーづくり宮崎県西都市(JA西都)
西俣 弘次さん

西都市は宮崎県のほぼ中央に位置し、温暖な気候にも恵まれピーマンや胡瓜といった施設園芸の盛んな地域です。
特に生産量日本一を誇る宮崎産ピーマンの主要産地となっていることは、全国的に有名です。
そこで、今回はJA西都管内の西都市で営農され、マンゴー部会の青年部長を務めておられる若い生産者のリーダー的存在の西俣弘次さんにお話をお伺いしました。
そのJA西都管内の生産物の中で最近一際脚光を浴びているのが宮崎県下統一ブランド"太陽のたまご"完熟マンゴーです。ただし、太陽のたまごと認証されるには厳しい審査があり、糖度15度以上、果重350g以上、50%以上鮮紅色、無傷果、尻青果でない等が基準となり、JA西都管内の全出荷量の2割程度しか認証されていないとお聞きして、完熟マンゴーづくりは、本当に厳しい基準で生産者が全員で守り育てているのだとびっくりしました。
JA西都マンゴー部会は現在34名の部会員がおられ全ての方が生産技術向上に常に取り組まれており、平成15年には日本農業賞優秀賞を受賞されるなど輝かしい成果を挙げられているマンゴー部会です。
西俣さんのマンゴーづくりの歴史をお聞きしました。JA西都で最初にマンゴー栽培に取り組まれたのが昭和61年だったそうで、63年から市場出荷をされていたそうです。西俣さんは、その7年後の平成5年からマンゴーを栽培に取り組まれ、市場への初出荷が同7年との事でした。
マンゴー収穫後のハウスで、西俣さんご夫婦マンゴー収穫後のハウスで、西俣さんご夫婦最初は10アールから始められ、現在では50アールで栽培されており、被覆資材について当初はクリンテートUFOでしたが、現在は保温力の高いDXを中心に展張していただいており、外張りは0.1、内張りは0.75の厚みを使用されています。
マンゴー栽培では、ほぼ一年中ハウス被覆しているため風に対して破れにくく、破れの伝播しにくいなおかつ保温力、透明性にも優れているクリンテートはマンゴー栽培に向いているとの評価をいただき、誠にうれしい限りでした。

最後に、宮崎県産のマンゴーは周知のように宮崎県知事の底知れないPR効果により、より一層知名度が上がり売価も高価格で推移したわけですが、完熟マンゴーの基本であるネット栽培の確立、台風災害からの復興などいろんな話を聞く中でPR効果はもちろんそうですが、生産者のたゆまない努力が根底にありその上に良い品物が作られ、それが完熟マンゴーとしてのブランド確立となり、大きな成果が上がっているのだと感じました。
西俣さんには、すばらしい完熟マンゴーづくりをしていただくことと併せて、地域のリーダーとして大いにご活躍していただき、ますますご発展されるよう祈念しています。(宮崎県営業担当 河野記)

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